幸か不幸か


どこに視点を置くか、ということによって、
いま現在の「幸か不幸か」「良いか悪いか」というのは、全く違ってくるのだろうと思う。

以前、私がある職場でクレーム対応をしていたとき、年末の短期アルバイトでやってきた、当時私よりも20歳ほど年上の女性があった。仕事も早いのに、手と同時に穏やかな語り口も動き、その場を和ませるような話をしてくれるようなひとで、いつもにこにこしている彼女がいると、理不尽なクレームが入ってすさんだ職場の雰囲気になっていても、和らいだ。

或る夜勤務のときに、彼女とふたりになったことがあって、問わず語りに彼女の半生を聞いた。若くして結婚した彼女は、結婚後すぐ急にご主人の海外勤務が決まり、彼女は後を追って行くからと、彼はひとあし先に海外に赴任した。日本で出発準備を続けていた彼女の元に、ご主人の訃報が届いたのは、結婚後ひと月のことだった。赴任先のアメリカで移動中に起こった突然の事故だった。
何よりも深い悲しみを抱えながら、アメリカでの彼の死に関するしなければいけないことに当たらなければならず、その心労と体力の消耗で、彼女には既に彼との間に子どもが授かっていたが、とてもとても残念なことに流産してしまった。

「絵に描いたような不幸と思われるかもしれないわ。でもね、私はいま、7匹の猫と気楽な生活で、こうして時々お小遣いを稼ぎながらの悠々自適なの」と、彼女は笑った。
「だからね、そんな顔をしないで。私は自分が不幸だと思っていないのに、ひとから不幸だと思われてしまうのは、ちょっと違うのよ」と、絶句した私に、素晴らしい自尊心を語った。

その、30余年前の辛い出来事を耳にして、その出来事の後、彼女がどんな風に考え、想い、暮らしてきたのかまでは、私は尋ねることができなかった。しかし、目の前で、7匹の猫のことを愛おしそうに話す彼女をみて、きっとその来しかたが、傍目からはどんなにか辛く大変であったとしても、彼女が常に受容性を以って世の中を、自分の運命を許して来られたのだなと、感じ入った。


最近ちょっと、プライベートで対立、というのか自分が孤立化しているともいえる状況に陥ってしまうようなことがあり、私は自分がいま不幸な状態にあるのだと、自分に思い込みを感じてしまいそうだった。彼女のことを思った。受容性を以ってひとと、世の中と関わることが大切なことを教えてくれた、彼女のことを思った。「幸か不幸か」など、どこの場所から考えて言えるものなのかと語った彼女のことを思った。

彼女とは、ほんの少しの言葉を交わしただけだ。それでも、私の憧れのひと、となって今も私に穏やかだけれど鮮明な印象を与える。

李々佳・・縷々綿々

占い師:李々佳のあれこれ雑記・・・ どこへいくかわからない散漫な話ですが、目に留めていただけたら嬉しいです。 「リーディングケース」では今までの実占例をご覧になれます。

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